戻る     次へ     目次へ

d.対応のあるとき(ノンパラメトリック検定).
検定の対象となるデータが次のようなとき,
@明らかに正規分布でない.
A明らかに分散が異なる.
B半定量的・定性的な離散量データであったり,あるいは順位尺度で測られている.
Cデータの数が少ないので,分布にとらわれず一般性を持たせたいとき.

などのときには,ここでのウイルコックスン(Wilcoxon)検定を適用すると良いでしょう

[一般形式]

[検定の手順]
@検定の問題を明かにする.
「2つの標本の平均値に差があるか?」

A仮説の設定を行う. 注釈表示
帰無仮設(H0):μA=μB
対立仮設(H1):μA≠μB..................(両側検定のとき)
対立仮説(H1):μA>μB または μA<μB....(片側検定のとき)

B危険率(100α%)を設定する.
両側検定の有意水準:α/2
片側検定の有意水準:α

C検定統計量(t0)を計算する.
まず初めにデータの符号化と順位変換を行います.

すなわち,対応するA群とB群のデータの差(di)をひとまとめにし昇順順位系列を作ります.
ここで, 
n=データの個数,XAi=A群のデータ,XBi=B群のデータとするとき,
その差は,
i=XAi−XBi(i=1,2,・・・,n)

であり,表27のように表すことができます.

表27 昇順順位系列と順位和
標本r1・・r2 ・・ ri ・・・rn順位和
順位(+d)+R1 +R2 ・・ +Ri ・・ +Rn+R
順位(-d)-R1 -R2 ・・ -Ri ・・ -Rn-R

「+R」と「-R」はデータXAとXBの正(+)と負(−)差の順位とします. 注釈表示

ここで順位和「+R」と「-R」の小さい方をウイルコックソンの検定統計量(t0)とします.

D統計的判定を行う.
[両側検定のとき]
0>Tn(α/2)ならば,「危険率100α%で有意な差がない」
0≦Tn(α/2)ならば,「危険率100α%で有意な差がある」

[片側検定のとき]
0≦Tn(α/2)ならば,「危険率100α%で大きい(小さい)」

なお,Tn(α/2)は表計算ソフウト(エクセル、関数式)から求めます.
求め方は次の「例題23」を参考にして下さい。

[例題23]
高血圧患者 10名について降圧剤の投与前と投与後の脈拍数を観察し,次の結果を得ました.
投与前・後の脈拍数に有意な差があるかどうかを検定します

投与前 78 79 79 85 81 77 80 78 75 76
投与後 75 84 92 81 89 81 85 84 83 74

検定は次の手順で行います.
@投与前と投与後の差(di)を求めます.

投与前 78 79 79 85 81 77 80 78 75 76
投与後 75 84 92 81 89 81 85 84 83 74
差(di) +3 -5 -13 +4 -8 -4 -5 -6 -8 +2

A差(di)の符号(+)(−)別に大きさの順に並べます.

順位12345678910
+d+2+3+4
同順位
−d-4-5-5-6-8-8-13
同順位

同じ順位のものが4(○印)が2ツ,5(△印)が2ツ,8(□印)が2ツあるので,それぞれに順位の平均を与えます.
「B.対応のないとき(ノンパラメトリック)」を参照して下さい.

B 差(di)の符号(+)(−)別に,順位平均の順位和(+R,-R)を求めます.

順位12345678910
+d+1+2+3.5
-d-3.5-5.5-5.5-7-8.5-8.5-10

順位和は次のようになります.
「+R」= 1+2+3.5 = 6.5
「-R」= 3.5+5.5+5.5+7+8.5+8.5+10 = 48.5

そして,順位和の小さい方(+R)を検定統計量(t0=6.5)とします.
ウイルコックスンT分布の下側パーセント点(臨界値)は,表計算ソフト(エクセル、関数式)から求めます。
求め方は「WilcoxonPair%Point」をクリックして下さい。

関数式による方法(WilcoxonPair%Point)

ここでは、5%危険率の両側検定ですので「エクセル、関数式」の有意水準(α=0.025)の「個数入力」セルに「10」を入力しますと、
T(0.05/2)=8

が得られます。
0=6.5<T(0.05/2)=8(両側検定,危険率 5%)

から,投与前と後の脈拍数に有意な差があると云えます.
これは,降圧剤投与にともなう血管拡張効果によるものと判断されます.

「注釈」
  1. 厳密にはデータの差(d)が差の分布の中央値(0)であるときに対し,(負)の確率と(正)の確率が同じであろうと云う仮説, H0:Pr{d>0 }, 1=Pr{d<0}に対して行う.
  2. 「対応のあるとき」の昇順順位系列は,対応するA群とB群のデータの差(di=XAi−XBi)をひとまとめにして, 差(di)の+−に関係なく差の絶対値(|di|)を小さい方から大きさの順に並べたものを云う.
  3. データの順位変換において,データに同じ順位があるとき,順位の平均をそのデータの順位とする. 要領は「B.対応のないとき(ノンパラメトリック検定)」と同じである.

戻る     次へ     目次へ     TOPへ