- 平均値の「差」を検定の問題とするとき,2組の標本の正規性は「a.対応のないとき」ほど,厳密に考えなくても良い.
しかし,正規性の仮定が極めて困難なときとか,正規分布であるかどうか分からないときにには「D.ノンパラメトリック検定」を用いる.
C.対応のあるとき(パラメトリック検定)
「対応のあるとき」とは,2組のデータが運動の前後とか,投薬の前後など,検定の対象が異なる時点で測られているようなものを云います.
また,2組のデータが異なる母集団からのものであっても,同一条件下でペアとして測られており,同一の特性を有するものは「対応のあるとき」として扱えます.
[一般形式]
血圧を例にとれば,A群とB群は同じ個体に対する薬剤の投与前後,あるいは運動の前後などです.
[検定の手順]
@検定の問題を明かにする。
注釈表示
A仮説の設定を行う。
帰無仮設(H0):μA=μB
対立仮設(H1):μA≠μB (両側検定のとき)
対立仮設(H1):μA>μB または μA<μB(片側検定のとき)
B危険率(100α%)を設定する。
両側検定の有意水準:α
片側検定の有意水準:2α
C検定統計量(t0)を計算する.
初めに,2群データの差(di)と差の平均(dbar)を計算します. di=XAi−XBi dbar=狽i/n
そして,次にデータの差の分散(V)を計算します.
V=(di−dbar)^2/(n-1)
n=データの個数 , XAi=A群のデータ , XBi=B群のデータ
ここでの差の平均と,差の分散を用いて検定統計量(t0)を計算します.
t0=|dbar|/(V/n)
D統計的判定を行う.
[両側検定のとき]
t0<t(n-1,α) ならは ,「危険率100α%で有意な差がない」
t0≧t(n-1,α) ならは ,「危険率100α%で有意な差がある」
片側検定のとき]
t0≧t(n-1,2α)ならは ,「危険率100α%で大きい(小さい)」
なお,t(n-1,α)は表計算ソフト(エクセル、関数式)から求めます.
求め方は次の「例題22」を参考にして下さい。
[例題22]
高血圧患者 10名に対する降圧剤の投与前と後の血圧値を次にに示します.
投与後の血圧は投与前より有意に低いと云えるかどうかを検定します.
投与前 | 186 176 178 168 218 172 172 180 180 194 | |
投与後 | 140 132 144 140 144 150 156 136 180 154 |
検定は次の手順で行います.
@投与前と後の血圧の差(di)と差の2乗(di^2)の計算.
前 | 186 | 176 | 178 | 168 | 218 | 172 | 172 | 180 | 180 | 194 |
後 | 140 | 132 | 144 | 140 | 144 | 150 | 156 | 136 | 180 | 154 |
di | 46 | 44 | 34 | 28 | 74 | 22 | 16 | 44 | 0 | 40 |
di^2 | 2116 | 1936 | 1156 | 784 | 5476 | 484 | 256 | 1936 | 0 | 1600 |
対応するデータの差(di)の平均(dbar)は次のようになります.
dbar=狽i/n= 348/10 =34.8
対応するデータの差(di)の偏差平方和(S)と分散(V)は次のようになります.
S=狽i^2−(狽пj^2/n=15744−348^2/10=3633.6
V=S/(n−1)=3633.6/9=403.733
以上から,検定統計量(t0)は,
t=|d|/SQRT(V/n)=34.8/SQRT(403.733/10) =5.477
となります.
検定は降圧剤の投与によって,血圧の低下が当然予想されるので片側検定となります.
検定は,
t0=5.477>t(9,0.1)=1.833 (片側検定,危険率5%)
から,投与前よりも投与後の血圧が有意に低いと云えます.
すなわち,降圧剤の効果が認められると云えます.