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B. 対応のないとき(ノンパラメトリック検定)
平均値の差の検定において,2群でのいずれかの分布が,データ変換によっても正規性が得られないとき,
あるいは離散量データであったり,順位尺度で測られているようなときには,ここでの検定を用います.
ここでは次の2方法について説明します.

@ウイルコックスン(Wilcoxon )の順位検定.
Aマンウィットニー(Mann-Whitney)の順位検定.

[一般形式]

血圧を例にとれば,A群とB群は異なる薬剤などによって得られる評価の点数などです.

[検定の手順]
@検定の問題を明らかにする.
「2つの標本の平均値に差があるか?」

A仮説の設定を行う. 注釈表示
帰無仮説(H0):μ=μ
対立仮説(H1):μ≠μ.................(両側検定のとき)
対立仮説(H1):μ>μ, または μ<μ(片側検定のとき)

B危険率(100α%)を設定する.   
両側検定の有意水準:α/2    
片側検定の有意水準:α

C検定統計量(R0,U0)を計算する.
まず,初めにデータの符号化と順位変換を行います.
すなわち,A群とB群のデータをひとまとめにし,表23のような昇順順位系列を作ります. 注釈表示
このときnA=A群のデータ個数,nB=B群のデータ個数,XA=A群のデータ,XB=B群のデー タ (i=1,2,・・・,nA:j=1,2,・・・,nB : nA<=nB)とします.

表23 順位和を求める昇順順位系列
順位 1<r2<・・rk・・・<rn 順位和
A群 1<R2<・・Rk・・・<R A
B群 1<R2<・・Rk・・・<R B

1〜RnはA群とB群のそれぞれのデータ(XA,XB)の順位とします.
ここで,
A とRB の小さい方をウイコックソンの検定統計量(T0)とします. 注釈表示

また、
マンウィットニーの検定統計量(U0)は,次のようになります.

A=(nA・nB)+ nA(nA + 1)/2 − RA
B=(nA・nB)+nB(nB + 1)/2 − RB

そして,
AとUB の小さい方をマン・ウィットニーの検定統計量(U0)とします.

D統計的判定を行う.
[両側検定のとき]
0>TnA,nB(α/2)または,U0>UnA,nB(α/2)ならば,                    
「危険率100α%で有意な差がない」  

0≦TnA,nB(α/2)または,U0≦UnA,nB(α/2)ならば,                  
「危険率100α%で有意な差がある」

[片側検定のとき]
0≦TnA,nB(α/2)または,U0≦UnA,nB(α/2)ならば,                 
「危険率100α%で大きい(小さい)」

T(α/2),U(α/2)は 表計算ソフト(エクセル関数式)から求めます.  

求め方は次の「例題21」を参考にして下さい。

[例題21]
気管支喘息患者にキサンチン誘導体製剤を投与し,その効果を「発作の改善性」,「患者の印象」について5段階評価した成績を表24に示します.

表24 5段階評価点数による成績
発作の改善性(標本A) 5 , 3 , 2 , 4 , 4
患者の印象(標本B) 4 , 2 , 1 , 3 , 3

評価点数に有意な差があるかどうかを検定してみましょう.
検定は次の手順で行います.

@標本(A)と標本(B)のデータ(点数)をひとまとめにして,大きさの順に並べ変えると表25のようになります.

表25 評価点の昇順順位系列
順 位 1 , 2 , 3 , 4 , 5 , 6 , 7 , 8 , 9 , 10
標本(A) ....2.......3...........4...4.......5
同一順位 ....○......△..........□..□
標本(B) 1.......2.......3....3..........4
同一順位 .......○.......△...△........□

同じ順位のもの,
2点(○印)が2ツ
3点(△印)が3ツ
4点(□印)が3ツ
それぞれに順位の平均を与えます. 注釈表示

順位の平均は次のように計算します.
2点の順位平均=(2位+3位)/2=2.5
3点の順位平均= (4位+5位+6位)/3=5
4点の順位平均=(7位+8位+9位)/3=8

A検定統計量(T0,U0)の計算.
標本(A)と標本(B)の順位は表26のようになります.

表26 順位和の計算から検定統計量を求める
標 本 順 位 順 位 の 和
標本(A)の順位 2.5 , 5 , 8 , 8 , 10 RA=33.5
標本(B>の順位 1 , 2.5 , 5 , 5 , 8 RB=21.5

ウイルコックスンの検定統計量(R0)は,順位和の小さい方(RB)の 21.5 が R0=21.5となります.
なお,マンウィットニーの検定統計量(U0)は,
標本(A>のデータの個数 nA=5,標本(B)のデータの個数 nB=5 ですので,

A=(5×5)+(5×(5+1))/2−33.5=6.5
B=(5×5)+(5×(5+1))/2−21.5=18.5

となります.
A,UB のうち小さい方(UA)の 6.5 が検定統計量(U0=6.5)になります.

B「ウイルコックスンのT分布」と「マンウィットニーのU分布」から,それぞれの下側パーセント点を求めます. 注釈表示

パーセント点は表計算ソフト(エクセル関数式)から求めます。
ウイルコックスンの下側臨界値は次の「Wilcoxon%point」をクリックして下さい。(「Wilcoxon%point)
マンウイットニーの下側臨界値は次の「MannWhitney%point」をクリックして下さい。(「MannWhitney%point)

「エクセル関数式」では片側の%点が与えられますので、
危険率5%での両側検定では有意水準(α)0.05/2=0.025 のセルにA群とB群の個数を入力して下さい。
そうすると、

ウイルコックスンR(0.05/2)=17
マンウイットニーU(0.05/2)=2

が表示されます。これが危険率5%の両側%点(臨界値)となります。
ここでは、

0=21.5>T(0.05/2)=17 (両側検定,危険率 5%) 
0=6.5>U(0.05/2)=2  (両側検定,危険率 5%) 

から,標本(A)と標本(B)の評価点に有意な差はないと云えます.
すなわち,「発作の改善性」と「患者の印象」は一致していると考えられます.

「注釈」
  1. 仮説でのμA,μBは,2つの母集団での分布関数FA(x),FB(x)の平均値とする.
  2. 仮説について云えば,2つの母集団からの分布関数をFA(x),FB(x)とするとき,
    帰無仮説(H0):FA(x)=FB(x):FA(x)/FB(x)=1 に対して検定を行うことになる.
    「ノンパラメトリック検定」では,以下同じ様な意味である.
  3. 昇順順位系列とは,データを小さい方から大きさの順に並べたものを云う.
  4. 検定統計量(R0,U0)は順位和の小さい方である.
  5. データに同じ順位のものがあるとき,順位の平均をそれぞれのデータに与える.
    実際の要領は「例題21」を参考にされたい.
  6. A群とB群のデータの個数の小さい方をnA,大きい方をnBとする.すなわちデータの個数はnA≦nBの関係とする.
    ここでの「エクセル関数式」では大きさを考える必要はない.
  7. T分布とU分布のパーセント点は,日本規格協会刊の「簡約統計数値表(ノンパラメトリック検定)」を参考にされると良い.

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